ヒト・モノ・コト

中西正彦さん

/横浜市立大学 教授

中西正彦さん

/横浜市立大学 教授

横浜市金沢区には、約2万人の人々が暮らす“金沢シーサイドタウン”があります。

今回紹介するのは、その金沢シーサイドタウンを舞台に、“持続的なまちづくり”に取り組んでいる横浜市立大学(以下、横浜市大)の中西正彦教授。地域交流拠点として設置された「並木ラボ」でお話をうかがいました。

「この周辺を歩くと、建物と公園や道路、並木などの緑が織りなす“街としての美しさ”が感じられると思います。地域全体をひとつの街としてデザインされた、当時としては大変画期的な団地だったのです」。中西教授は街の魅力について、そう語り始めました。

1970年代後半、横浜市六大事業のひとつ金沢地先埋立事業の一環として造成された金沢シーサイドタウン。金沢産業団地(現在の名称はLINKAI横浜金沢)に隣接する大規模な集合住宅団地として開発されました。横浜市はいち早くアーバン・デザインの考え方を取り入れ、建築家の槇文彦氏が担ったグランド・デザインのもとで多くの事業者の協議調整を行った結果、機能的で美しい街なみが実現されています。

「開発から約40年が経った現在でも魅力的な街であることに変わりありませんが、一方で近年は高齢化が課題になりつつあります。大規模に開発され、短期間で急速に人口が増えた地域ほど、高齢化も一気に進みます」

住みやすく暮らしやすい街であることから、居住者が定住化。それ自体は素晴らしいことですが、一方で世代の入れ替わりが起こりにくくなりました。結果として高齢者の割合が増え、人口も緩やかに減少、一世帯あたりの居住人数も少なくなりつつあります(※)。

横浜市大の中西教授が同校の三輪准教授とともに、多世代にとって暮らしやすい街づくりを目指すアクションを始めたのは、約7年前のこと。文科省による「地(知)の拠点整備事業」採択を受け、新たな地域の交流拠点として「並木ラボ」を設立しました。

「地域への愛着を育てる講座を開いたり、健康づくりの啓蒙活動として医学部地域看護学教室による健康調査を行ったり、はたまたラボの外に飛び出して、商店街活性化を目的としたスタンプラリーを実施したりするなど、とにかく色々なことにチャレンジしました」と中西教授は当時の状況を振り返ります。

また時期を同じくして地域の連合自治会、地区社協、NPO法人「らしく並木」による「これからの並木を創る会」が設立されたため、そちらをサポートする活動もスタート。地域と大学が連携し、より住みよい街にしていくための試みが始まりました。

「『地(知)の拠点整備事業』による支援期間は5年間。その後は活動の主体を大学から地域の担い手に引き継ぐ必要があったのですが、いきなり地域住人に譲り渡すのは無理がありました。また、スタート当初は大学が運営主体となり、活動資金も補助金を受けて大学が全額負担していましたが、その活動資金をどうするかも課題になっていました。

しかし、並木周辺には幸いにして、LINKAI横浜金沢を中心に数多くの企業が集まっています。彼らを巻き込んで地域活性化につながる活動をしていけばいい、それこそ本来のエリアマネジメントだろう! ということで、横浜市大とサポーター企業による共同研究、共同出資の体制を採ることになったのです」

サポーターには三井不動産や地域の企業8社と、金沢区役所、横浜市住宅供給公社が参加しました。並木地区におけるエリアマネジメントの取り組みをより多くの人に認知してもらうため、「あしたタウンプロジェクト」という新たなプロジェクト名称が決定。並木ラボも現在の地に移転し、活動内容がさらに拡充されることになりました。

「大手企業だけでなく、造園業や建設業、不動産仲介業など、地域活性化に直接つながる企業と手を組むことができたことは、大きな成果だったと思っています。こうしたスキームは今後、他の地域でも重要になってくるのではないか? と感じています」と中西教授は言います。

「あしたタウンプロジェクト」の活動内容は、「子育ち(※子育ての間違いではありません)」「福祉」「すまい」「公共スペース」「地域ブランディング」の5本柱。デザインされた街の特性を活かしながら、若い世代がここで暮らしたい! と感じる街づくりを目指します。

こうした活動を企業がサポートする目的は、単なるボランティアや地域貢献のためだけではありません。地域住民とともに活動すること、それ自体が消費者(あるいは人的資源)と直接的につながる手段となるのです。取材時、並木ラボの壁には企業からの求人票が貼ってありました。そうした地域と産業、双方にとってのメリットがあって初めて、本来のエリアマネジメントが走り始めるのでしょう。

2018年から始まった現体制も、実は自立自走型の組織が走り始めるまでの準備期間。最終的には一般社団法人による独立運営、独立採算に移行する予定です。

「金沢シーサイドタウンは緑豊かで、遊ぶ場所が多く、歩車分離(歩道と車道を計画的に分離し、安全性を高めた都市設計のこと)が進んだ、暮らしやすい街です。また住まいのすぐ近くに働く場所があることも、子育て世代の親たちにとって大きなメリットとなるでしょう。若い世代を呼び寄せるには、そうした地域の魅力をさらに高め、広く発信していくことが大切。そのためには、地域に暮らす人たちと企業が手を取り合い、ともに活動する体制が欠かせません」

大規模開発された街の高齢化は、今や全国的な課題。「あしたタウンプロジェクト」が今後、新たなエリアマネジメントのモデルケースとなっていくのかもしれません。金沢シーサイドタウンが開発から時を経て、さらに魅力的な街となっていくことに期待しましょう。


「あしたタウンプロジェクト 金沢シーサイドタウン」

参考資料:データdeかなざわ 平成31年4月版
 

 

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