ヒト・モノ・コト

藤戸淳平さん

/IB BREWINGヘッドブルワー

藤戸淳平さん

/IB BREWINGヘッドブルワー

世界を旅する中でクラフトビールの素晴らしさと出会い、ベトナムのブルワリーで働き始めた藤戸淳平さん。しかし日本への一時帰国中にコロナ禍でベトナムに戻れなくなってしまい、友人とともに日本で自らのビール会社を立ち上げました。彼がまだ横浜市立大学在学中の一年半前、当コーナーに登場いただきましたが、今回はその後日譚です。

前回までのストーリーはこちら 

広島県呉市に自家醸造所「IB BREWING」を作るため、クラウドファンディングを募集中だったのが前回までのストーリーでした。横浜生まれ、横浜育ちの彼が広島県呉市市原地区を拠点としたのは、2018年の西日本豪雨災害で大きな被害を受けた限界集落に産業をもたらし、復興に寄与したいという思いから。被災で家族を失い、他の地に移り住んだ方のひとりが、古民家を貸し出してくれることになったのです。

 

クラウドファンディングは見事成功、220万円以上もの支援金が集まりました。しかし、それでも十分とはいえません。「古民家の片付けや機材の設置工事などはできる限りDIYで行いましたが、それでも発酵用タンクや瓶詰め用機械などビール製造専用の機材費用が高価なため、1000万円以上の初期投資費用が必要でした。ファンディング以外に日本政策金融公庫からの融資も受けて事業をスタートできました」と藤戸さんは苦労を語ります。

ところで日本で醸造所を作るには、醸造免許が必要です。醸造免許(最初の3年間は仮免許)を取得するには製造技術や衛生管理、設備の審査に加えて「年間必要製造量」についても規定があり、発泡酒の場合は年間6000L出荷しなければなりません。営業活動は主にIB BREWING代表の西原さんが、製造はヘッドブルワーの藤戸さんが担当しています。

「法人設立直後の段階で月に800L生産できる設備があったので生産能力は問題なかったのですが、自社製品を扱ってくれる店舗を見つけて確約を取り付けるのに苦労しました。なにせ、まだ誰にも知られていない製品ですからね。プレゼン能力、経営能力が問われるところで、ここが日本でクラフトビールを作る上での第一関門。日本では小規模ブルワリーを作れない仕組みなんです」

無事に免許を取得できたのが今年2月。すぐに仕込みを始めましたが、初期に仕込んだものは発酵不良や酸化等が原因で満足できるクオリティに仕上がらず、4仕込み目でようやく初出荷となりました。しかし、いざ本格稼働するとバックオーダーを抱えるほどの人気に。それまで古民家の納屋のみを使っていましたが、母屋にまで敷地を拡張、醸造タンクなどの設備も当初の3倍に相当する生産能力に増設、さらに瓶でなく缶への充填機も新たに導入されました。これらはすべて、醸造免許取得から約半年の間に行われたことです。若者がもつエネルギーって凄い!

なんと今秋の時点で、広島県内最大規模の設備をもつクラフトビール・ブルワリーにまでなってしまいました。そんな順風満帆のスタートをきった藤戸さんに改めてクラフトビール作りの魅力を尋ねると……
「ビール作りを通じて、様々な人たちと関われるのが一番の魅力ですね。クラフトビールって今、とても多様化しているんですよ。フルーツはもちろん、お茶の葉をフレーバーとしてプラスしたり、麦ではなくお米から作ったり。ベトナムにいた頃には、コオロギのビールを作ったこともありました。ちなみに当社オリジナルのSpecial Sunflowerという製品では、私たちと同じ瀬戸内エリア、高野町産有機栽培ホップを使用しています。

仕込みから出荷までに何か月、何年もかかるワインやウイスキーなどと違い、2〜3週間という短期間で作れるのも長所です。スピーディに製品化できるので他社ともコラボしやすく、現在はOEM製品のご依頼もたくさんいただいています」

年明けには、さらに設備を増強する計画があるそう。次なるステップは、「IB BREWING」というブランドを世界に展開していくこと。5大陸全てに自分たちのブルワリーを作る……という壮大な目標に向かって、彼らはすでに歩み始めています。

IB BREWING 
https://ibbrewing.jp/

PAGE TOP