ヒト・モノ・コト

藤戸淳平さん

/株式会社Story Agent CEO

藤戸淳平さん

/株式会社Story Agent CEO

藤戸さんは横浜市立大学に通う学生であり、クラフトビールの製造、輸入、販売を行う株式会社Story Agentの経営者でもあります。「旅するきっかけを作る」ことをコンセプトとした同社のビールがどのようにして生まれたのか、彼が生まれ育った横浜市金沢区のご自宅近くで話を聞きました。

高校生時代は県内のサッカー強豪校に通い、部活動に明け暮れる日々だったという藤戸さん。横浜市立大学に進学し、人生観が大きく変わった出来事がありました。2年次のときに大学を休学して行った、世界一周の旅です。

「NICE(ナイス)というNGOが主宰している『ぼらいやー』という国際ボランティア・プログラムに参加し、中南米やアジアなど世界35か国を周りました。旅をしながら環境保全団体や養護施設で活動したり、日本語を教えたりしていたのですが、ここで人生観がガラッと変わりました。それまで日本で身に染みついてきた、普通でなきゃいけない、ちゃんとしていなきゃいけない、といった価値観が全て壊れて、どうせ人生一回しかないのだから好きなことをやってみよう! という気持ちに変わったんです」

海外での生活を経験して、カルチャーショックという言葉では言い表せないほどの衝撃を受けた藤戸さん。その後、復学しますが、その時点で「無事に卒業して大企業に就職」という将来像は思い浮かばなくなっていたと言います。

どうしたら起業して、好きなことを仕事にできるか? を考えました。導き出した結論は再び海外に行き、働くこと。文部科学省の「トビタテ!留学ジャパン」というプログラムに応募して見事合格、返済不要の奨学金を得て、海外インターンに挑戦しました。

「自分が本当に好きなことは何だろう? と考えたときに、食べることと、お酒を飲むことだ、と気付きました。海外で誰もが気軽に飲めるお酒といえばビールです。インターンを募集しているクラフトビール製造メーカーを探し、ベトナムの7 Bridges Brewing Co.というアメリカ人と日本人が立ち上げたベンチャー企業を発見、そこで御世話になることになりました」

インターン先では、クラフトビールの営業職に就きます。まだ学生である上、ベトナム語が堪能ではなかったにも関わらず、僅か2週間の研修で、現地での飛び込み営業を任された(!)とのこと。しかしクラフトビールを扱う店舗は国際感覚に敏感な店が多く、営業先では、ほぼ英語で通じたそうです。

営業職をひと通り経験した後、当初の目的だったビールづくりを学ぶ仕事への配置換えを願い出ました。現地では、日本のゆずをフレーバーとして入れたビールが人気で、原料仕入れのために一時帰国。しかし、そこでコロナ禍に見舞われ、ベトナムに帰ることができなくなってしまいました。

しかし、そこで挫けることはありませんでした。ベトナムに行くことができないなら、日本からインターン先に業務委託して、自分が求める味のビールを作ってもらえばいい! と発想を転換。そうして生まれたのが、Story Agentのオリジナル・クラフトビール第一弾となる「Travel Trigger(トラベルトリガー)」です。製造や輸入にかかる費用はクラウドファンディングで調達。取材したのはベトナムから最初の積み荷が届いたばかりのタイミングでした。果たしてどんな味わいなのでしょうか?

「今回は2種類作りまして、ひとつは伝統的な小麦ビールであるヘーフェヴァイツェンにパッションフルーツを入れたエキゾチックな味わい。もうひとつはミルクシェイクIPA(ホップが大量に入ったIPAに乳糖を加えたもの)にパッションフルーツソーダを加えたもので、ともにアルコール度数1%以下のノンアルコールです。製法は一般的なビールと同様なので、ノンアルコールでも香り高く、味わい深いのが特長。日本では味わったことのないタイプのクラフトビールですよ」

現在は第2弾のクラウドファンディングを募り、広島県呉市に自家醸造所を作り、小麦とひまわりの種を原料としたヴァイツェン、りんごをふんだんに使用したIPA作りに挑戦している彼。製品名は「IB Brewing」と名付けました。地域創生の思いを込め、醸造所を置く予定の「市原」という地名にちなんだ名前です。

「クラフトビールには、それぞれにストーリーがあります。ビールが苦手な奥さんでも飲めるビールであるとか、新たな産業を作って限界集落を助けたい……であるとか。そうしたストーリーをふまえて飲むことで、美味しさが倍増するのがクラフトビールの魅力。作られている地域のストーリーを知ることは、世界中で起きていることを自分ゴト化することにつながるかもしれません。これからも単にビールを作り、売るのではなく、物語を伝えることを大切にしていきたいと考えています」

藤戸さんが丹精込めて作ったビールには、旅を通して得た経験、人生への姿勢が味わいとして醸し出されているに違いありません。

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