ヒト・モノ・コト

瀧脇 信さん

/一般社団法人 からこそBOX 代表理事

瀧脇 信さん

/一般社団法人 からこそBOX 代表理事

現代人は地域社会とのつながりが希薄になった、とはよく言われることです。新型コロナの影響で、人と人のコミュニケーションはさらに難しくなっているのかもしれません。そんな世の中の現状に一石を投じようとアクションを起こし始めた若者がいます。

横浜市立大学を卒業した瀧脇信さんが始めたのは、街に“誰もが気軽に話せる場”を作るための活動でした。学生時代、かつて横浜市中区石川町にあった「アートスペース『と』」を拠点に、地域の子ども達に無料の学習支援を行う「つきしみの学校」などを運営していた瀧脇さん。プロジェクトに協力してくれた地域の人や子ども達との交流の中で学んだことが、かけがえのない経験になったと言います。

「『つきしみの学校』は学習支援を目的としていましたが、単に勉強を教えるのではなく、気軽に相談できる環境を作ることで子ども達をサポートしたい、という思いから始まったプロジェクトでした。このプロジェクトは大学の先輩たちが立ち上げたものですが、『学校でも家庭でもない、気軽に立ち寄れるサードプレイスを子どもたちに提供したい』という先輩達の思いに私も共感し、お手伝いをさせてもらいました。最終的には支援する側、される側という立場を超えて、私にとっても素晴らしい経験となりました」

また、昨年度は横浜市の「SDGs bizサポート補助金」の助成を受けて「ヨコハマ野菜でつながるプロジェクト」を瀧脇さんがリーダーとなって実施。このプロジェクトは地元農家で収穫した新鮮な野菜を、各家庭に無料で配達する……というものです。野菜を調理する様子や野菜を使った料理を写真や動画で撮影し、事務局に送ると次回の野菜が届く、という画期的な企画でした。企画は大好評で、参加した人たちのレシピは「みんなの野菜たっぷりレシピBOOK」という本にまとめられています。

瀧脇さんのこうした活動のキーワードになったのは、全て「コミュニケーション」でした。人と人とが直接会って語り合うことで新たな学びが生まれる、刺激を受ける、不安な気持ちが和らぐ。コロナ禍で思うように人と会えなくなったことで、コミュニケーションの大切さをより実感するようになったと語ります。

「対話することの大切さを学んだのは、横浜市金沢区の臨海工業地帯LINKAIにおけるモノ作りの魅力を地域に発信するイベント『Aozora Factory』に学生リーダーとして運営に携わったことが最初でした。地域の産業を担う社会人の皆さんと当時、大学生だった私がフラットに話せる環境がとても新鮮に感じられました」

現代において、子ども達が学校の先生や親以外の大人と出会える場所は、極端に少なくなっています。瀧脇さんが「アートスペース『と』や『Aozora Factory』で活動した中で経験したことは、子どもにとっても大人にとっても地域社会とのつながりが精神的な支えとなり得るということでした。

現在、「アートスペース『と』」は石川町から関内に移動し、名称も「アートスペース『と』関内」となりました。子ども達の学習支援を継続していますが、店舗が一階路面からビルの5階に移動したこと、またコロナ禍となったことで、これまでのような活動が難しくなりました。しかし瀧脇さんはそうした状況にめげることなく、「人が来にくいなら自分たちが外に出て行けばいい!」と発想を転換。自分達の屋台を作り、移動カフェのようなスタイルで、誰もが気軽に立ち寄り、話せる場所を創出しようと計画しています。今年8月にはそうした活動を行う基点として、仲間とともに一般社団法人「からこそBOX」を設立しました。「からこそ」には、「今だからこそ」できること、「こんな状況だからこそ」すべきこと、という意味が込められています。

瀧脇さんのような若い世代の人たちから、街づくり、人づくりの発想をもっている事実には未来への希望が見出されます。大人たちも今こそ前を向いて進んで行かなければならない、そう感じました。

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